ヨコタのそれはそれ、あれはあれ。

ヨコタの感じた日々のあれこれ

祈りと、そして。


星の跡を辿るには声をあげなければいけない。


命を吹き込んだ声を何度も何度も。
祈りに近い行為だが、本質は違う。
祈りとは託す行為だ。今日以降の日々を自分の助けになる様にと託すのだ。神、または何かに。

星の跡は祈りでは辿れない。

祈りでは過去の、今日より昔の、自分を、
許したくない自分を、憤懣やるかたない日々を晴らす事はできない。

星の跡を辿る必要がある。

ただ、我々は1度星の跡を辿った事のある人間だという事も知っておかなければいけない。

生後、産声。まさしく最初の辿りだ。
我々は赤子が泣けば乳を与える。それは知識で。
しかしな赤子はその知識がない。泣けば乳が手に入るとは知らないのに、我々は声をあげてきた。


それ以来星の跡を辿った事があるだろうか。

俺は思うのだ。祈りでは解決しない。

過去の失敗した自分が、それすらも間違い出なかったと思う事が出来るには、星の跡を辿り、無垢な叫びを浴びせ、再び星に光を灯すしかないのだと。

俺たちは光を灯せる。

過去の自分を責めるのは疲れる。
その自分を認めるために何度も星の跡を辿るのだ。

たとえ、一瞬しか光らなくても。
そして、それがほんの一瞬でも、俺はちゃんと見ておくから。

約束するよ。

いつも最低いつも最低最高最低

日記を付ける習慣が俺にあるなら、今この瞬間の事はいの一番に日記に認めるんだろうと思った。

人の刺すような視線、視点の定まらないまま見つめる便器の底、歪んだ君の表情。
日々の最低なんて、どんな最低を知っていても、山手線のように、何度だって俺の前に現れては更新していく。

でも俺は知っている。俺は自ら最低の渦の中に飛び込む事もある。(同じ"趣味"の人もいたら嬉しい)
喜んでではない。
俺はいつだって最低の浅瀬に使っていたいのだ。
我々は本来最高になれる。本当にいとも簡単に。
ただ最高の時に最低になりたくはない。それは最悪な事で、もう立ち上がれない、再起不能だとまで思う。
だから浅瀬につかる。とかげのしっぽ切り。
ハイリスクハイリターンなのだ。

最高最低最高なんてアルコールでもなきゃやってられない。

そう、思ってた、確かに、今までは。

深夜の道を歩く。
酒気を帯び、7月の湿度をのせた、君の淡い肌を照らしたのは、夕暮れのオレンジの太陽でも、凛と光る夜月でもなく、さびれた俺の街の覇気のない街灯だった。
それでも、浅い最低に照らされた君があまりにも綺麗で、それはあまりにも最高だったわけで。

最低の中にある最高もあれば、最高の中にある最低だってある。

あの瞬間、自分がカメラの道に進まなかった事を少し後悔した。

つまり、要約すると。

視線を逸らす。
日々のなんだかなぁ、を抱える。

彼女と僕の差は、実はない。
強いて言うなら、例えば電車のひと駅の間に、さっきまで明るかった空が夜に変わっている様なしたたかさを持ち合わせていなかったり。

例えば、例えば君のように。


降りしきる槍の中で吠える君を。
僕は記憶しよう。盾にはなれずとも、僕だけは君を記憶しよう。
その君の衝動が、誰の心を震わせられなくとも、誰の脳も揺さぶらせられなくとも、僕は君を記憶しよう。
聞こえぬなら目で、見えぬなら手で、触れれぬなら想像しよう。
猛る君を想像しよう。

それがわかるのは、紛れのない君を知っているからだよ。




視線を逸らす。
日々のなんだかなぁ、を抱える
僕らに違いはない。

視線を逸らす。
日々のなんだかなぁ、を抱える

視線を逸らす。
日々のなんだかなぁ、を抱える

君の目に映る、猛る僕の衝動。

あーあ。


待合室でレントゲンを撮るために順番待ちをしている。
平日の総合病院は混んでいた。
呼ばれるまでの時間を皆椅子にかけてじっと待つ。

シートはほとんど埋まっていて一つ残った空いてる席に腰を下ろした。待機して10分程度、ぼそぼそと声が聞こえる。
あいてないねぇ、、、
老夫婦が立っていた。おそらく奥様の付き添いで夫が来ており椅子が空いてないもんだから夫が気を揉んだのだろう。
あいてないねぇ、、、
いいよいいよ立ってるから
当人はこの会話を聞かせているわけではない。
ヨコタは席を立って少し離れた壁にもたれた。
またぼそぼそと聞こえる

ほら、空いたから座りなよ
いいよ、悪いし
せっかく譲ってくれたんだから

なんだか最悪の気分になった。
こと良いことをしてる感じがすごく嫌だった。
だからすぐに先生から名前が呼ばれた時とてもホッとした。あの空間に長居はできなかった。


良いことをしたつもりはない。ただそれは偽善として、自分を良く見せようとしてやった事でもない。
ただ、自分より座りたい気持ちの強い(主観だけれど)人が座れば良いと思っているだけだ。
だから良い事でやったわけではない。現に自分は座りたい気持ちが強くあったら、優先席でも平気で座り続ける男だ。
人と一緒に暮らす際、家事を平等に分担はしない。どっちもやりたくない事、それをやりたくない気持ちが強くない方がやればいいと思う。要は仕事量ではなく気持ち面で分担しようという考えだ。
この裁量で生きてこの裁量に従順なだけである。良いも悪いもない。

機械的に従うだけの行為を"せっかく"譲ったと言われれば騙したみたいだ。
本当に生きづらい。

暮らしの中で何度、無駄に落ち込んで来たのだろうと思う。
これが無駄なんてわかってはいるけど落ち込まずにはいられない。

無駄に落ち込んでないと、自分が良い人なんじゃないかと錯覚してしまいそうでいつかその錯覚が解けた時にどうにかなってしまいそうで。

その正当性は、女、を持ってして証明されるだろう

知らないので知らないと言った。
だって本当に知らなかったから。

夕方、西日の射すカフェで彼女は嘘だというような顔でコーヒーをすすった。
どう思われようがいいけど、知らないものは知らないし、そんなに勘ぐられると気分が悪い。
いっそデタラメでっちあげていたく困らせてやればよかった。

彼女の言い分はこうだ。
先月、彼女と彼女の彼氏、そして私と彼女の共通の女友達で食事会をした。彼女の家に招かれたので彼氏がご飯を作ってくれた。
皆ほどよく飲み、ほどよく食べ、ほどよくお喋りし、ほどよい時間で帰宅した。
問題はその後である。彼氏の料理がだんだん凝ってき出して、味も美味しくなってきたのだと言う。

いいことじゃない、と私は返した。
彼女はきっ、と私を睨んで声を荒げる。

ちっともいい事じゃない!あの晩彼氏の料理をゆうこが手伝ったでしょ?それから料理が日に日に上手くなっていって...
絶対あの後何回か会ってはゆうこにご飯を作ってるんだわ!

確かにあの晩、ゆうこが料理を手伝っているシーンはあった。あるには、あった。
ただ、彼女が言うような親密さや、やましい雰囲気は感じなかった。
いくらなんでも突飛が過ぎる。
第1そんな器用に密会なんて彼氏には出来そうもない。

私は思った通りのことを話した。

彼女の行き場のない怒りの矛先はやがて目先の私へと移る。

本当は知ってるんでしょ?と。
ゆっくりと舐めるように言った。

だから私は知らないと答えた。
だいたい本人に聞けば済む話じゃない。

彼女はコーヒーをすすった。
あなたには、彼女はいう。あなたにはわからないよ。私の不安も焦りも。あなた、彼氏いた事ないんでしょ?わかるわけないよ。
彼女はもう一度コーヒーに口をつけ窓からの外を睨んだ。

とうとう彼女の魂胆がわかった。
彼女は解決を求めていない。ただ溜まった鬱憤をどこかにぶつける必要があった。
その行為に私は見覚えがある。
私もイライラした時、パーっと気分を晴らしたい時、自分を慰める。彼女は私を使って自慰行為をしている。
私のような恋愛経験の乏しい女を、無知、無邪気に善悪区別付かず事が流れるのを楽しんでいると自分に落とし込んで、溜まった毒素を投げつければ気持ちいいと踏んでいるのだ。
要するに私はうってつけだった。

彼女は相変わらず外を睨んでいる。
彼女の言う恋愛経験が、1人の男のために感情を揺さぶられるもの全般というなら、たしかに私にはない。
だとすればそもそも私に相談するのはおかしい。
だから、自慰行為だと思った。

あー、めんどくさい。私は女のこういうところが嫌いだ。
背負ったものを要は八つ当たりとしてしか還元できない。女の中で当たり前になっているその行為が嫌いだ。
感情的になっていると見せかけて、その裏、冷静に還元先を選んでいるのもずるくて嫌だ。

もう帰りたかった。
私はこの場から去れる最短ルートを頭の中で検索する。
ここはもう彼女のシナリオに則ろう。

目を伏せ、出来る最大の申し訳なさと落ち込んだ表情で、そうだよねと告げる。
いくらばかりかの硬貨を置いて私は店を出た。
彼女はまだ窓の外を覗いている。


卑下してしまえば。卑下してしまえばいくらか楽だろうと思う。ただ、それ用の心持ちを、気前のプライドを無視しなければ、私はいくつかの小骨を取り除かないと満足に嚥下出来ない。

帰りの電車で彼女からメールが届いた。
さっきはごめんなさい。ただの八つ当たりだよね。
私は大丈夫だよ、と返事をする。
そう。よくわかっている。八つ当たりをするつもりで私を呼び出し、毒を排出した。

ただ、私は彼女の事が嫌いなわけではない。
彼女もおそらくきっと私の事を嫌ってはいないと思う。
問題は彼女が一友人として私を認識し、嫌いではないというフィルターを通した上で私を下に位置付けた。

まぁ考えてもしようのない事だろう。
ただただ、早く帰りたい。
なんせ、家では彼がご飯を作って待っている。
最近凝って上手になった料理を作って待っている。

モラルについて語るつもりはない。
なぜなら私は「女」だからだ。


あー、家に帰ったらまず何をしようか。
ご飯にしようかな、お風呂にしようかな。
それとも、気分に任せて八つ当たりの自慰行為でも。

曖昧さにかまけて。

男は言う
「きちんと定義がなされてないものがある。

定義した上で話さないとやっかいな時もあるし、その逆もある。
私たちってなんなの?と男に問う女は、その関係を定義したい。
一方の男は、なんなんだろうと返す。彼はこの関係をセフレと定義しない。
やっかいとめんどくさいの男女は往々にして見る。


優しさなんて得体の知れないもので、そこに下心があるかなんていちいち定義する者はいないように思える。

やがて、定義しないと不安な人間は物に頼るようになる。
幸福を金銭という尺度で測ったり
愛を物品で測ったり、実にキリがないように感じる。

幸福を感じればそれで幸福で、愛を感じればそれを愛とすればいい話なのに、物に依存しきった者はみな、1度物を通さないとその実態を掴めない。


しかしだからこそ人間は繁栄したという見方も出来る。ホモサピエンスとして現在は(過去を考えても)地球を我が物とし、それを制御しようという地位まで上り詰めた。
もはや物にすがる行動はDNAにまで刻まれたあるじ人間の生態とも言える。

即ちこの生態を悪いと言っているのではない。
感じているとすれば危機感である。
実態を持って尺度とすれば、多く尺度を持つ者とそうでない者に分かれる。
なけなしの尺度で、あるいは自分を、あるいは相手を、あるいは世界を測れば、と危惧する。
そうして絶え間なく過大評価や、過小評価され変わっていく世界、相手、自分をどの様に捉えればいいのか。
波の様に渦巻く世界を一体何を篝火として歩けばいいのかわからなくなる。
ふらふらと手探りで歩く誰かを、または胸を張って歩く誰かを、尺度を多く持つのものが、尺度を持っていないと、決めつけだと笑うだろう。
そういう彼らもまた笑われているのではないか。

ただただ、独り言として聞いてほしい。
俺はそうはなりたくないと言うだけだ。

幸福に実態があってたまるか、歩く道が整備されてたまるかと思う。
物を通して、一辺倒に幸福、非幸福と宣ってたまるかと空を睨むだけだ。」

一息ついて俺は言う。ここで言う男と俺の関係は自問自答だ。

世界を一つとして決めない方法はあるんじゃないの。円も実は多角形みたいに、尺度をいっぱい、それこそたくさん持ってあれもこれもみたいに。

男が返す。
「似たものは作れる。だけど、俺がしたいのは違う。尺度を全く持たない選択だ。

そうやって曖昧さにかまけて、結局何が何だかわからなくなるのはごめんだ。
曖昧なのは1つの暴力にすら感じる。」

曖昧さの暴力。と俺は返す。

その日から俺は傘の差し方を忘れてしまった。

それより、もっと小さい

こんなに人が多いとは思わなかった!と彼女が駆け寄ってくる。見慣れた余所行きの服で、ぱたぱたと小走りする。つるんとしたおでこにはうっすらと汗が見えた。
それはそうだよ、と私は言う。これから花火大会で普段ここに来ない人も花火を見にくるから。

しばらく黙って彼女は人のごったに目をやった。やがて額にしわを作り、手で顔を仰ぎながら、花火ってそんなにいいものなのかしら、と彼女は返す。私は心配になって、花火は嫌いだったかと彼女を覗き込んだ。彼女は全然!と明るい声で返事をした。私は安堵し、彼女は、ただ、好きでもでも嫌いでもないよ、と続けた。彼女が言うには好きか嫌いかの評価するものにまだなり得ていないもの、と言う事らしい。
私は、と彼女は言う。私はほとんどの物事を相対的な評価でしか見ない。美的感覚が乏しいのかも知れない。私は花火という光を一体なにと比べて綺麗だと言えばいいのか知らない。世界に女が私しか居なかったから私を選んだって言われても嬉しくないでしょう?
私はいたく感心して、ほお、と相槌をうった。
でも今日は楽しみだった。浴衣を着たいつもより相対的にかっこいい君がみれるから。恥ずかしげもなく彼女はいう。
それなら、と。それなら君も浴衣を着てくればよかったのに、と拗ねてみせると、あれは労力に対して得られる可愛さが釣り合わないと笑った。

とりあえず、とりあえずビールだ!と私の手を引き、彼女は人混みに切り込んだ。

    • -

花火を見ながら、先刻彼女は言っていた事を考えていた。
遅れてやってくる花火の音で胸が振動する。

Q.来年も来れるだろうか?
A.来年も来れるようにしよう。
Q.来年は今年より相対的に楽しくなるといいね。
A.毎年楽しくなったら疲れちゃう、相対的に全く同じ楽しみにして。
Q.そういう考え方もありなんだ。
A.ありなんだよ。

花火の終了の時間が近づいた。
最後の最後、花火のクライマックスでその日1番大きな花火が上がった。
私は、彼女の瞳に映る花火を追った。

そういえば、と彼女は言う。
そういえば聞いてなかったけど、君は花火は好きなの?

ペットボトルのキャップサイズの打ち上げ花火が好きかな。あれはいい、相対的比べるものがなくても綺麗だと思うよ。と返す。

線香花火?

ううん、それより、もっと小さい。

なんだそりゃ、と彼女は残りのビールに口をつけた。
それに合わせるように私もビールを飲み干した。

花火が終わると、もう用は無いと言うように人がゾロゾロと帰り出した。

蒸し暑い夏が終わる。

彼女はいつか、私の中にキャップサイズの打ち上げを見つけてくれるだろうか。