すごい速さで夏は過ぎたがベイベー
夏の匂いがして、いつのまにか春が遠のいていったことを悟った。
世間は梅雨だというのに、1日と経てば濡れた路面は消え失せて、土を蹴って歩けばジャリジャリとわんぱくな音を鳴らした。
次の春は当分先だと憂う必要はなくて、こんな事を考え耽ってるうちに地球は軌道上をすごい速さで進む。
時が速くなるのは確かな様だ。
子供の頃、友達の家に行く途中、川に遊びに行く途中、学校から帰る途中、自転車から伝わる振動が、心臓の鼓動とリンクして急かされる様にペダルをこいだ。
悠久かの様な夏を俺は何度も過ごした。
しかし今はあの振動が警鐘だったのかとすら思うようになる。
あの夏、速かったのは時間じゃなくて、間違いなく俺たちだった。
あの屋根が見えたら、あの飛び込み台が見えたら、とペダルを漕ぐ足に力が入る。
そうして、風を追い越して、街も景色も追い越して、いつの間にか秋に追いついていた。
でもと思う。俺たちは老いたわけでも、能力を失ったわけでもない。
ただ、ギアを。ただギアを下げただけだ。
大人だなんだと見え透いた嘘をつかれて、ただかしこまっただけだ。
滾れ、大人たちよ。
エンジンは立派なものを積んでいるはずなんだ。
燻ってる場合じゃない、ギアを入れ替えよう。
大人も子供もなく無免許で走っていた高速道路を知らないはずがないんだ。
抜いたと思った春にまたすぐ追い付かれるぞ。
どうする?俺は秋を追いかけに行くけど、君らはどうする?
きっと、思った瞬間だけは絶対追い風だぜ。